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ソール・ライター展と映画「急がない人生で見つけた13のこと」 [展覧会(陶芸・デザイン等)]

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東京での展覧会は終わりましたが、伊丹市立美術館で来年8月から開催されます。
ソールライターにインタビューしたドキュメント映画「急がない人生で見つけた13のこと」
はDVD化されていて、再上映の可能性もあるので、記事にしておきます。


ソール・ライター、初めてきく名前だったが、チラシ(上の写真)に惹きつけられた。
映画のスチール写真のような静けさのある抒情表現。時間が止まっているかのよう。
行こう!と思ったのに、時間がとれなくて行ったのは最終日、閉館2時間前だった。
しかも「入れるのかしら?」と思うほど、待ちの列が美術館のある地下から1階まで続いていた。
Bunkamuraの展覧会で、こんなに並んでいるのを見たのは初めて。

ソール・ライター(1923~2013)は、アメリカのピッツバーグ生まれ。
父がユダヤ教の聖職者だったので、ライターも神学校へすすんだが、絵画に大きな関心
を持ち、図書館の美術書なども参照にしながら独学で絵画を習得。

しかし、個展を開催するも絵は売れず、生活のためにファッション写真に転向。
1950年代にはモード雑誌「ハーパス・バザー」の専属となり、写真家として成功をおさめる。
「ハーパス・バザー」は、「ヴォーグ」と並ぶモード誌で、リーダー的存在だった。

カルメン.jpg  《カルメン、『Harper's Bazaar』》 ソール・ライター財団蔵 [コピーライト]Saul Leiter


しかし、いつまでも順風満帆の生活は続かず、撮影の依頼が減少、1981年にはスタジオ閉鎖
を余儀なくされた。ライター自身も自由な創造性を求め、自らのためにだけに制作する「隠遁生活」
へ移り、次第に世の中から忘れられていった。

そんなライターが再び注目を浴びるようになったのは、カラー写真がきっかけ。
彼は1950年代からカラー写真を撮影していたのだが、当時は現像費が高く、現像技術も十分
といえなかったので、未現像のまま自宅に放置されていた。

1994年、イギリスの写真メーカーが、カラープリントのために助成金を出したことで、
ライターは過去作品を現像し、ニューヨークのギャラリーで写真展を開催した。
これが大変な評判を得、さらに何度か写真展が開催され、2006年にシュタイデル社より写真集
「Early Color」が刊行された。美術館やアンリ・カルティエ=ブレッソン財団でも展覧会が開かれ、
ライターは再び写真界の表舞台に登場した。83歳になっていた。


私が好きな傘の写真2つ。共に上から見下ろした視点。
左側のは、傘が画面の下3分の1を覆う。上3分の1は赤信号。3分割の構図が斬新。
さらに都会的センスの色づかい。
右側の赤い傘の写真は、画面を斜めに横切る雪の坂道。モノトーンの中に赤い傘。
浮世絵の構図にそっくり。

足跡2.jpg
《赤信号》1952年 ソール・ライター財団蔵 [コピーライト]Saul Leiter     《足跡》1950年 ソール・ライター財団蔵 [コピーライト]Saul Leiter


大胆な構図と美しい色彩、それがソール・ライターの特徴といえよう。
チラシの左側の写真 「天蓋」1958年、画面の半分以上が天蓋になっている大胆構図。
霧の中を行く人々、無彩色のようだが、薄いクリーム色の背景で全体が温かく見える。


同じく、ぼたん雪が舞う日のニューヨーク。これも絵画のような美しさ。
右の人の傘のおしゃれなこと。

yuki300.jpg
《無題》1952年 ソール・ライター財団蔵 [コピーライト]Saul Leiter


チラシの右側の写真 「雪」1960年は、雨の日、ガラス窓に映る外のようす。
雨のしずくと水蒸気でのもやっとした感じが抒情をよぶ。
ソール・ライターは、ガラス窓への「映りこみ」が気に入っていた。
「ウェイター、パリ」では、ガラス戸に映りこむ反対側の道に立つ人々が面白い。
主役の年とったウェイターは、お盆に視線を向けこぼさないように気をつけている。
パリでの普段の生活の一コマなのだが、切り取りかたでドラマを感じさせる。

Paris.jpg《ウェイター パリ》 1959年 ソール・ライター財団蔵 [コピーライト]Saul Leiter


ソール・ライターは、背中を撮るのも好きだった。ハンマース・ホイの絵を思い出すような作品
「モンドリアンの労働者」は、茶系の落ち着いた色の濃淡だが、モンドリアンの「コンポジション」
を想い起すから、このタイトルなのだろう。
走る車の中なら撮った写真も多い。「戸口の犬、パターソンにて」では、ホッパーの「日曜日」が
浮かんだ。

モンドリアンの労働者.jpg《モンドリアンの労働者》 1954年 ソール・ライター財団蔵 [コピーライト]Saul Leiter

ヌード写真が何枚もあったが、モデルとの親密感が感じられ、日常生活が
切り取られているかのようで、よかった。緊張感なしで撮られているからだろう。
ボナールの絵に似た構図のものもあった。


若い頃、画家だったソール・ライターは、ボナールらナビ派の絵を愛していた。
デ・クーニングらの抽象主義が盛んだった時代なので、その影響も受けている。
ライターの絵も展示されていたが、私には、個性が感じられず、写真の方がずっといいと思った。


先週、東京都写真美術館へ「世界報道写真展」を見に行った。
そうしたら、偶々、ソールライターのドキュメント映画「急がない人生で見つけた13のこと」を
やっていたので、ラッキー!もちろん見た。


インタビューに対し、ソール・ライターが人生、いろいろ、あったけど、こんなことが面白かったよ、
と語る。とてもリラックスして、あははと笑いながらの思い出話。
たとえば、
「『ハイパーズバザー』での1年より、ボナールの一枚のデッサンの方が私にとっては意味がある」
と編集者に言ったら、彼女の表情は凍りつき、軽蔑の眼差しで私を見つめていたんだ。


チラシの写真「雪」に関しては、
「雨粒に包まれた窓の方が、私にとっては有名人の写真より面白い」
(つまり、この「雪」の写真を大いに気に入っている。)

「肝心なのは何を手に入れるかじゃなくて、何を捨てるかなんだ」

「私は日本の浮世絵のコレクションを持っていた。ボナール、ヴュイヤールも持っていた。
その時代は、そこそこ安く買えたんだ。そしてお金が必要になるたびに、それを売っていた。」

映画は近所で写真を撮るようすなども交え、単調にならないよう工夫している。
部屋の壁には淡い色合いのライター自身の絵が3枚かかっていた。お気に入りのボナール
に似ているような、いないような。。時々猫がすっと傍を通る。

昔一緒に暮らしていた彼女は亡くなって、、いいやつだったのになぁ、一緒で楽しかった、
と、言いながら、彼女の荷物をほどくと、そこには、ソール・ライターからプレゼントされた品の
包装が中をすとんと抜いたままとってあった。包装まで大切にとっておいて、いい彼女だった
のね、と、じんと来た。

インタビュー当時、89才。
長い人生を歩んで来たからこその含蓄のある言葉の数々、と感じた。

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